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青森地方裁判所 昭和28年(行)38号 判決

原告 織田隆弘

被告 青森県知事

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告が原告に対し昭和二十七年四月三十日別紙目録記載の宅地(以下本件宅地と略称する)についてなした特別都市計画法にもとずく換地予定地変更指定はこれを取り消す、訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として次のとおり陳述した。

(一)  本件宅地はもと訴外前田忠八郎の所有にかかる宅地二千数百坪の一部に属していたところ、原告において昭和二十一年九月中これを右忠八郎から買い受け、その頃分筆のうえ所有権移転登記を経由したものである。

(二)  しかるところ、被告は原告に対し本件宅地を従前の土地として昭和二十四年三月三十日換地予定地指定を、同二十六年三月十九日右換地予定地変更指定をなしたが、更に同二十七年四月三十日再度の換地予定地変更指定をなしたもので、その経過、内容は別表(一)記載のとおりであるが、右四月三十日の換地予定地変更指定は次の理由により違法のものである。すなわち、

(1)  本件宅地は右忠八郎所有の時代にすでに特別都市計画法にもとずいて四百余坪を道路敷地に編入された残地であつて、他の振合からみても、これ以上の減歩はもはや考えられない関係にあつたものであるが、右変更指定によれば、本件宅地の登記面積と実測面積とが相違している関係もあつて、更に約十八坪が割取されることになり、その減歩率は過大にすぎるものである。

(2)  又、本件宅地は宗教法人高野山青森別院の境内地であつて、その地上には同別院経営にかかる社会事業保育所並びに診療所(昭和二十三年の竣成にかかり、手続の都合上、現在はその主管者の立場にある原告の所有名義にはなつているが、近く本件宅地と共に同別院に移譲の予定のもの)が建築されているところ、右変更指定によれば、公共の施設である右診療所は中央部近くから分断され、移築場所もないところから、廃止のやむなきに至るは必然であり、ひいては、右診療所のあげる利益に依存している保育所の運営にも支障をきたし、これ亦閉鎖の運命におかれるものである。

(3)  なお、本件宅地のうち前記割取部分は、そのまま隣地の所有者である訴外小倉房夫に換地されるとのことであるが、これによつて、右房夫は減歩分を差し引いても約十八坪(実測面積二十余坪)の増歩をみることになり、原告と甚しく均衡を失しておるし、又実地についていえば、右房夫方の裏手に所在する庭園の坪数を増加するだけであつて、同別院が右診療所を分断され、壊滅的影響を蒙るのに比較するときは、明かに公共の福祉のために行うという都市計画の目的に背馳しているものである。

以上の次第で、被告のなした右換地予定地変更指定は違法のものであるから、これが取消を求めて本訴に及んだものである。

なお、本件宅地については、本換地処分は未了であり、又昭和二十八年八月十九日更に右変更指定の変更案が土地区劃整理委員会に提案され、目下審議中であり、一方、調停の交渉をも同委員会委員に委嘱中のものである。

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として次のとおり陳述した。

原告主張の事実中(一)は原告が本件宅地を買い受けた日及び登記の日については知らないが、その他は認める、(二)の前段については、本件宅地を従前の土地とする換地予定地指定及び換地予定地変更指定の経過、内容は別表(二)記載のとおりであるから、これと合致する点を認め、その他は争う。(1)は本件宅地が訴外前田忠八郎所有の時代にすでに相当坪を道路敷地に編入された残地であることは認めるが、その他は争う。(2)は本件宅地上に保育所並びに診療所が建築されていること及び右変更指定によつて、右診療所が分断されることは認めるが、その他は争う。(3)は本件宅地のうち割取部分が隣地の所有者である訴外小倉房夫に換地されることは認めが、その他は争う。

被告は本件宅地について右忠八郎を所有者として第一回の換地予定地指定をなしたのであつたが、その後、実地測量が現地と相違していることが判明したので、いつたん杭打することを中止し、改めて附近一帯全部の測量を仕直し、その結果にもとずいて第二回の換地予定地変更指定をなそうとしたところ、その際はじめて、所有権移転登記こそ経由していないが、原告において本件宅地を右忠八郎から買い受けていることが明かになつたので、右変更指定は原告に対しなしたのである。しかるところ、その後更に原告が分筆のうえ登記した台帳面積が三百十二坪七合九勺であることが判明したので、その面積にもとずき換地したのが、第三回の換地予定地変更指定なのであるが、その間前後三回を通じ換地面積においては大なる変更はなく、単に図面上多少の修正があつたにとどまるもので、しかも、これによつて原告には減歩とはならず、却つて約五十坪の増歩をみるものである。

又、右変更指定により右診療所が分断されはするが、その割合は約三分の一にすぎないし、しかも右診療所は被告が第一回の換地予定地指定をなした際には未だ存在していなかつたのに、換地手続進行中に原告が強いて建築したものであるから、被告としてはこれについて考慮する必要はないものである。

なお、右房夫に対する換地関係は別表(三)記載のとおりであるがこれと原告に対する換地関係とを比較するときは不公正の点はみあたらないのである。

以上の次第で、被告のなした右換地予定地変更指定はなんら違法のものではない。

(証拠省略)

理由

まず本訴の適否について職権をもつて考察する。特別都市計画法にもとずく土地区劃整理は終局的には本換地処分をもつて完了し換地予定地指定又は換地予定地変更指定はその前段階的処分であることは論のないところである。しかしながら、換地予定地指定又は換地予定地変更指定も独立した一つの行政処分であることも亦明かであり、しかも、それ自体固有の法律効果を有しているものであるから、これが取消を求める訴訟の出訴期間についても、行政事件訴訟特例法第五条所定の制約を受けるものと解するが相当であり、その前段階的処分であることに重点をおき、本換地処分までは何時でもこれが取消を求めることができるものと解するのは適当ではない。しかして、本件の場合にあつては、被告が原告に対し右換地予定地変更指定をなしたのが昭和二十七年四月三十日であることは当事者間に争がないところ、記録に徴すれば、本訴提起の日が同二十八年十一月二日であることが明白であつてその間すでに一年六箇月余を経過しているのである。しからば、本件訴は前法条所定の不変期間たる性質を有する出訴期間六箇月を遵守しなかつた不適法なものとしてこれを却下するのほかはないと考えられる。

よつて、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九十五条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 工藤健作 中島誠二 田倉整)

(目録及び別表省略)

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